分かってはいる。分かってはいて自分で納得はしていて受け入れているのだけれど辛いものは辛い。あの子と私は何が違うのだろう?と考えても諦めしか生まれないくらいなのに。ああ、どうして私はあの子のように可愛くて、秀才で、社交性があって、センスがよくて、もう全部全部!なんであの子のように生まれてこなかったのだろう。あの子のように生まれてきたなら、この気持ちは諦めることはないだろうし自分に自信を持てただろうに。あなたに会うのがこんなにも辛いだなんて。会えば会うたびにあなたの魅了されるし、でもそれとは逆で虚しくもなって、もうどうすればいいのか分からなくなる。いっそ私の世界からあなたがいなくなればいいのに。(私が消えてしまえばいいのか)


ほんのり煙草の香りがした。それだけであなたが来たって分かる。(退学になったのになぜかいる)(さみしい)皆と明るい挨拶を交わして楽しそうにゲラゲラと笑っている。私の方にも、そのうち挨拶に来るだろうけれど、きっとついででしかないし、目に入らない限り声はかけてこないだろう。私は授業の準備をして時間まで外のベンチに座ってぼうっとしている。友達も少ないし、まあいつものことなのだけれど。ぼんやりとスマホを見ながら重いまぶたを擦った。一応、SNSの確認はしている。でも、いつも絶対に飛び込んでくる投稿は、あの子、レイチェル・アンバー。彼女のことを嫌ってる人はまずいないと思う。リアルが充実してます!っていう投稿を見て羨ましいと思うのは、とうの昔になくなってしまった。あの子は私にとって遠くの存在だし。同じ世界で生きていると思わなくなってしまった。


「よ、、おはよ」
「、クロエ、おはよ」
「何見てたんだ?私にも見せてよ」
「ちょ、ちょっと」


ぐっと私の肩に手を回して隣に座ってきた。スマホを覗き込まれて隠す暇もなく、それよりも、ああ顔が近い。自分の顔が熱くなっていくのが分かった。煙草の香りを漂わせて、私の気持ちも知らないでこんなことをしてくる、クロエ・プライス。そう、私が今、悩みの種としている人物だ。どうして私の気持ちも考えずにこんなことができるの!いや、分かってる。分かってるの。クロエは誰にだってそうなのだ。明るくて、誰とでも話せて(自分では友達はいないっていってるけれど)そう、レイチェル・アンバーとお似合い。そう、レイチェル・アンバーと。


「何だよ、レイチェルのページ見てたのかよ」
「あ、う、うん」


クロエは最近、レイチェルと仲がいい?(といううわさ)不良パンク少女のクロエがレイチェルと仲良くなんてできるの?何で仲良くなったの?って最初は思ったけれど、クロエは人懐っこいから、仲良くなったっておかしくない。レイチェルだって、最初はそんなつもりはなくても、付き合っていくうちにクロエのことを好きになるはずだ。だから何もおかしなことなんてなかった。本人はレイチェルとは何もないって言ってるけど、退学になったのはレイチェルのせいだってうわさもあるし、SNSでは一緒に写ってる写真が投稿されている。レイチェルは異性にも同性にも人気があるから、クロエに嫉妬している人はかなり多いと思う。私はその逆なわけだけれど(嫉妬する資格なんてないけれど)嫉妬したところでそれを態度に出すこともできないわけで。レイチェルのことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。こんな私にも声を掛けてくれるし、お昼を一緒に食べたことだってある。私が話さなくたっていろいろなことを話してくれるし。どこかのグループの子達(あえて伏せるけど)と違って嫌味がなくて、ああ、皆にこんな風に接してるんだなって思ったら尊敬だ。それが本当のレイチェルなのかは分からないけれど、レイチェルには皆引き込まれてしまうのだ。


「あーSNSっていうのは本当めんどくさいよな」
「どうして?」
「あることないこと、すぐうわさになる」
「まあ、確かにね」


クロエは煙草を取り出した。そして火をつけて、ため息をつくように煙草を吸う。そしてスマホを取り出して、また私の肩に手を回してぐっと引き寄せた。そして写真をいちまい。パシャリと音がして顔を背けようにも突然のことすぎて何もできなかった。怒ろうという気にもならなくて、それよりも、私と一緒に写真なんて撮ってどうするんだろう、と思った。クロエは、私が何も言わずぼうっとしているものだから、顔を覗き込んできた。そして私と目が合うとにやりと笑った。


「これSNSにアップしてよ」
「…なんで?」
「今度はが私と一緒にいる写真アップしたらどうなるかなーって」
「別にどうもならないよ、私ごときで」
「そんなことないと思うけど?」
「そんなことあるよ、」


面白がってる。少し腹が立った。私は真剣にクロエのこと想っているのに。それに私が投稿したところで誰もうわさになんてしないだろうし。あのレイチェルだからだよ。それだけの話じゃない。クロエは何も分かってない。何も何も何も。でも、別にそれでもいい。私の気持ちなんて一生伝わるわけじゃないし、伝える気もないし、私がもんもんとしていればそれでいいだけだから。
私は自分では分かっていなかったけど、少しむっとした顔をしていたらしい。クロエは悪かったよ、と言って私から少し離れた。そう、それでいいの、離れてしまえばいいの。


「…とだったら別にうわさになってもいいって思ったんだよ」
「…面白がってるの?」
「違うって!…それに、私ごとき、とか言うなよ」
「だって」
は、かわいいと思う、し…まあ、無愛想だし、友達もあんまりいないけどさ」
「余計なお世話です」


クロエが次に口をひらきかけてチャイムが鳴った。私は授業はじまるから、とベンチを立った。逃げるようにクロエに背を向けて教室に向かう。クロエは本当に何も分かってないよ。その気がないくせに私を期待させることばかり。こんなだから私はクロエのことを、ずっとずっと好きでいてしまうんじゃない。ああ、顔が熱い。その気がないって分かってても、こんなにもどきどきしてしまう。自分の中では駄目だって受け入れているつもりなのに。受け入れられてないんじゃない。もう消えてしまいたい。私のこのもやもやとした気持ちはどうすればなくなってくれるのだろう!いつまで苦しめばいいのだろう!


! 写真送っとくからなー!アップしとけよ!」
「…もうちょっと」
「え?」
「もうちょっとましに撮れたのじゃないと嫌!」




君を想って窒息死
(本当は期待させてほしい)

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